2005年02月12日

「大仏破壊〜バーミアン遺跡はなぜ破壊されたのか〜」高木徹著

DaibutsuHakai.jpg

良書である。
以前アフガニスタン関連本をここで紹介したが、その後もアフガン関連のいい本を探していたら、これが見つかった。NHKのドキュメンタリーを製作している人で、この本もその番組の取材に基づく内容。とても理路整然としていて、情報がすっきり整理されている。
そして、恥ずかしながら、自分の無知を徹底的に思い知らされた。今まであちこちで読み、聞きかじって、それを鵜呑みにしていた自分を、猛省させられた。
例えば、タリバンとアルカイダの関係。タリバンとは、混迷のアフガニスタンを統一し、厳しく統制しながらもひとまずは内戦を集結させ、安定した生活を取り戻した組織だ。アルカイダとは、お馴染みオサマ・ビン・ラディンが率いるアラブ人のテロ組織で、もともとはアフガニスタンのものではない。色々事件を起こして居場所がなく、また、ソ連のアフガニスタン侵攻の際には兵士として戦ったという経歴から、ビンラディンはアフガニスタンに身を寄せた。そのとき、アフガニスタンはタリバンにより統治されており、その最高指導者であるムハンマド・オマルは、ビンラディンを「まあ、問題起こさないでおとなしくしてりゃ居させてやってもいいぞ」程度に、軽くあしらっていた。
しかしやがてビンラディンはその資金力と政治力とカリスマによってどんどん力をつけ、タリバン政権中枢に入り込み、タリバンをすっかり変質させてしまった。
またタリバン政権が設立した「勧善懲悪省」という組織が暴走を始める。イスラムの掟に従わない者を罰するという、我々からは想像のつかない任務を背負った彼らは次第に権力を手にし、政府の中枢にいる役人たちでさえ、勧善懲悪省の管理下に置かれ始める。
タリバン自体は、「世界」に顔を向け、開放する方向に向かおうとしていた。しかし勧善懲悪省が「世界」、すなわちキリスト教が支配する世界との交流を拒み、国民に徹底した節制を強いた。

バーミヤンの大仏破壊は、「偶像崇拝」を禁ずるイスラムの教えがその発端である。もともと仏教徒たちが築いた像だが、今はこの地域には仏教徒は住んでおらず、アフガン全土がイスラム圏である。従って仏像には実質的に「偶像」としての機能はない。そもそもこれまで千年もの間、歴代のイスラムの指導者たちはこの「偶像」の破壊など試みることはなかった。
地元の人々をはじめ、古くからタリバンに関わっている人々も、一般のアフガニスタン国民も、破壊には反対していた。では誰がそれを進めたのか。勧善懲悪省と、オサマ・ビン・ラディンだった。
ビンラディンに進言され、もはや洗脳された状態になってしまったオマルは大仏破壊指令を出した。しかし固い岩盤に掘られた巨大な仏像は、ちょっと戦車で撃ったり、爆薬を仕掛けたぐらいでは表面的な傷を与えるぐらいしかできなかった。タリバンが遅々として破壊に手間取っていると、そこにアルカイダが、ビンラディンに率いられて登場。5トンにも及ぶ爆薬を調達し、大仏を破壊した。

大小2体のバーミヤンの大仏を破壊。その半年後、ニューヨークのツインタワーを破壊。
単に象徴的な意味ではなく、バーミヤンの大仏破壊は、9.11の序章だった。

こういった内容が、関係者の証言や現地での取材に基づき、整然と述べられる。目から鱗の事実が次々に現れる。これほど夢中になって読み進めた本は久しぶりだ。

大仏を破壊するという情報が世界に伝わると、世界は騒然となった。各国の議員や大使がアフガン入りして説得を試みた。アナン国連事務総長まで登場した。もっとも力が期待されたのが、アラビア半島などイスラム教の「本場」から集められた、高名なイスラム神学者たちの「ドリームチーム」だった。
しかしその誰も、勧善懲悪省とビンラディンが後押しするタリバンを押えることはできなかった。
ビンラディンにはその先に続く野望があったのだろうが、勧善懲悪省の役人たちはこう言った。
「アフガニスタンは何年も内戦と、旱魃と、飢饉に苦しんできた。何十万人、何百万人が命を落としてきた。しかし国際社会は我々を無視し、何の救いも差し伸べられなかった。その連中が、大仏破壊と聞くと、血相を変えて我々を説得しようとする。人が死んでいくのは黙って眺めていたが、「文化遺産」が危険にさらされると黙ってられないと言う。そんな連中の言うことを、我々が聞く義務があるか?」
「偶像」である大仏を破壊することが宗教的に正しいと信じる者が、こんな風に考えてしまったら。

これほど重みのある事実が、世間ではあまり広く知られていないことに、改めて驚愕する。どんなにメディアが発達して、便利な世の中になっても、やっぱり真実は自分の探し出さなくてはいけない。
溢れんばかりの情報の中に浸って、誰かが答えを与えてくれるのだという気分でいると、恣意的な情報にミスリードされる。いつの世も、民衆は愚かであり、情報を制するものが、世界を制する。
posted by しんかい at 01:03| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(3) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
しんかいさん、こんにちは。この本の書評、あちこちに出てますね。関連本を片づけてないのでまだ読めないんですけど、バーミヤンについては(ご存じかもしれませんが)NHKが壁画を3G画像にしたものを放送しています。イタリアの教会の天井画のような色使いでした。きっとそのうち何かの形で世に出るかもしれません。

http://www.jdaa.gr.jp/idaset/ida20/pdf/jdaa20.pdf
(pdfファイルが開きます)
Posted by koyuki at 2005年02月13日 17:30
koyukiさん、超長らくほったらかしにしててすみません。タイミングを逸してしまっていたのですが、ちょうど今本屋に並んでるSAPIOに書評(というか著者へのインタビュー)が載ってたもので、こりゃちょうどいいや、と。これからもよろしくお願いします。
Posted by しんかい at 2005年02月27日 00:37
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タリバンについてのお話
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