2005年01月03日

「マイケル・ムーアへ 〜戦場から届いた107通の手紙」マイケル・ムーア編

To Michael Moore

マイケル・ムーアというのは微妙な存在である。何かこう、独りで政府や巨大企業の悪に立ち向かうヒーロー、みたいな感じで、アメリカには敵も味方も多いだろうし、日本には圧倒的に味方が多いだろう。
私も「華氏911」のような映画を作って多くの人を啓蒙する彼の役割には頭を下げているし、「ボウリング・フォー・コロンバイン」以前の作品は単純に社会派エンターテイメントとして、面白いから好きだ。
しかし、例えば対ブッシュの強硬姿勢にしても、実際には「なんでこれを指摘しないの?」といういちばんイタいところに触れてなかったり、どこか、あと一歩のところでツメが甘い気がしてならない。まあ、その「あと一歩」に踏み込まずにいるからこそ彼はキャリアを絶たれずにいるのだと言えば、そうなんだろうけど。

この本はマイケル・ムーアの名前が前面に出ているが、彼が書いている文章は最小限で、ムーアに実際に宛てられた手紙の文面が大半を占める。世の中にはムーアの作品に対する反論をつらつらと述べる「反ムーア本」なんてのも何冊も出ているが、これは違う。基本的にムーアに同調する人たちからの手紙(というかeメール)だ。

イラクに駐留する米軍兵士。その他世界各地の米軍兵士。退役軍人。そして、兵士を送り出している、残された家族。それぞれの、イラク戦争や今のアメリカに対する想いが語られる。
ほとんどの兵士たちは、当然、最初は自分の直系のボスである合衆国大統領を支持する。だから、ムーアなんてとんでもない小賢しい野郎だと思っている。しかし世間があんまり「コロンバイン」と「華氏911」のことで大騒ぎするし、何だか駐屯地にビデオが送られてきたので、とりあえずビデオを見てみた。それでブッシュ観が、アメリカ観が、人生観が覆された。という人が多い。それだけの衝撃を受けたからこそ、わざわざムーア宛にメールを出そうという気にもなるのだろう。

退役軍人の場合はやっぱり甘ったれた世間知らずの若造どもとはひと味違い、それぞれに味のあることを言う。彼らの章を読んでいると、さすがに胸が熱くなってくる。

自らムーアに対して話しかけ、この本にメールが収録された人々は、決してアメリカ人のマジョリティではない。米軍兵士のマジョリティでもない。この本を読んで、短絡的に「アメリカ人もみんなこう思っている」などと思ってはいけない。
しかし、少なくともムーアはこの本で、映画が人々の人生観に決定的な影響を与え、必要ならば行動を起こさせることができることを示した。ジャーナリストとしての、映画監督としての最高の栄誉だ。だから彼は、自分自身の言葉にはほんの10ページ程度しか割かれていないこの本をマイケル・ムーア名義で出したのだろう。
映画や音楽を愛する私のような者にとっても、この本は「世界を動かした映画」の記録として、忘れ得ぬものである。
同時に、たくさんの「感動」が込められたこの本を読んでセンチメンタリズムに流され、「とにかく戦争は全部悪」「ブッシュは悪」「兵士はかわいそう」「ムーアはすごい」と短絡的に考えてしまってはいけない。これは読者を感動させるためのフィクションではなく、事実の記録である。感動しただけで終わっていては世界は変わらない。これは、読者が自分の頭で何かを考えるための、きっかけであり、ネタでしかない。
posted by しんかい at 18:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 本ネタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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