
ジョン・クーガー・メレンキャンプは、私の青春である。というのは前にもどこかで書いていると思うが。
1985年、高校1年生だった私がクラスの友人たちと一緒に行った初めてのコンサートが、ジョン・クーガー・メレンキャンプだった。もちろんそれは、彼のことが、別格と言っていいぐらい好きだったからだ。当時は1枚のアルバムを買うにも苦労する時代。わずか数時間のためにアルバム数枚分のお金が必要なコンサートは、やはり敷居が高い。
正直なところコンサートの内容自体はもうよく覚えていない。でも、あれから20年近く経った今でも、私はジョン・メレンキャンプが好きだし、彼の作品を買い続けている。これって、実はかなり凄いことかもしれない。
もちろん当時はアメリカらしいロックと言えば、ブルース・スプリングスティーンがその筆頭だった。まさに「Born In The USA」が大ヒット中だった彼は「ボス」と呼ばれ、貫禄があり、まさに親分としての威厳があった。その一方ジョン・クーガー・メレンキャンプは、もっと一匹狼的というか、少し裏びれた雰囲気があった。「Rain On The Scarecrow」という曲では借金で農場を手放さなくてはならなくなった主人公が、息子の為に土地を残してやれない苦しみを歌う。農民の立場に立って歌うロック。決してかっこいいものではないはずなんだけど、ヤケにかっこ良かった。レーガンの金持ち優遇策で苦しむ農民の支援のためにファーム・エイドというイベントを始めたりする彼の姿を見て、「社会」というものについて学び、考えた。ブルース・スプリングスティーンの「Bobby Jean」の歌詞に「We learned more from a three minute record than we've ever learned in school」という一節がある。実はこれって私にとっても、真実かもしれない。学校の社会科の教科書より、ロックを通じて見たほうが、よほどアメリカの社会というものをたくさん、深く知ることができた。私にそういう物の見方を教えてくれたのが、ジョン・クーガー・メレンキャンプだった。
当時私は農家に囲まれて、まさに農村に暮らしていたので、彼の歌詞はとてもわかりやすかった。もし私が当時都内に暮らしていたら、きっと、まったく違う接し方をしていたんだと思う。高校は、家のほうに比べれば少しだけ都会だったので、私は学校では「田舎者」だった。だからこそ、田舎者であることを、朗らかに、誇らしげに歌う「Small Town」は心に染みた。
名前を本名のジョン・メレンキャンプにし、だんだん存在感が地味になってきて、もう現役アーティストという感じはしなくなってしまった。そして、届けられた、キャリアを総括する2枚組ベスト盤。実に感慨深い。デビュー当初から21世紀まで25年のヒットを網羅。
80年代のヒットは今聴いても自然に歌詞が出てくる。あの頃は1枚CDを買ったら、たとえ好きになれなくても、意地でも何十回も聴いたもんなあ。ましてや大のお気に入りだった「Scarecrow」なんて何百回聴いたかわからない。
別に、あの頃の思いでが蘇ってくるとか、センチメンタルなことを言いたいわけではないし、実際のところ、そういうわけでもない。ただ、今聴いてもやっぱりいい曲だなあ、と。
「Pink Houses」や「Jackie Brown」といったアコースティックで素朴な曲も、彼の反抗的で一匹狼的な姿勢がポップな形で現れた「Authority Song」、田舎者賛歌の「Small Town」、5分半の曲のうち冒頭2分半がイントロのギターソロという大胆な「I Need A Lover」、むしろオヤジになってから洗練されてきて「Key West Intermezzo」みたいな曲をやったり、21世紀になってもちゃんといい曲を書いてる「Peaceful World」なんてのもあったり。新曲は2曲で、なんとベイビーフェイスのプロデュース。でも別に違和感のない仕上がり。そういえばベイビーフェイスってギタリストだしね。
初回はオマケDVDもついてきて、懐かしいビデオクリップが入っているが、なぜか5曲しか入っていないという中途半端なボリュームなのは不満。別売りしたいならそれはそれでいいから、ちゃんとしたビデオクリップ集を作って欲しい。
正直なところ、この人にいは思い入れがありすぎて、普通の人がこれを聴いて純粋に音楽的にどれほど楽しめるのかはよくわからない。しかし、世間一般では“超大物”というほどの存在感ではない彼が、全米チャートで本作を初登場13位に送りこんだ。やっぱりこの人に、特別の何かを感じている人は少なくないはずだ。